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「家なき子」の要件を確認し代償分割を選択|自宅を共有しなかった相続税申告事例

この記事でわかること: 名古屋市内の自宅土地・建物と預貯金等を子3人で相続した事例をもとに、自宅の取得者によって小規模宅地等の特例の適用関係が変わる場合に、どのように遺産分割案を比較したかを紹介します。

本件では、いわゆる「家なき子」の要件を資料で確認したうえで5つの遺産分割案を作成・試算し、相続人が比較した結果、自宅を共有せず代償分割を行う案が選ばれました。

目次

名古屋市内の自宅土地・建物と預貯金等を、子3人でどのように分けるかを検討した相続税申告事例です。

自宅敷地に小規模宅地等の特例を適用できるかどうかは、自宅を誰が取得するかによって変わります。そこで、戸籍、住民票、戸籍の附票、賃貸借契約書などの資料をもとに、自宅を取得する相続人が、自宅を所有していない親族に関する特定居住用宅地等の要件、いわゆる「家なき子」の要件を満たすかどうかを検討しました。

そのうえで、自宅の取得者、小規模宅地等の特例の適用関係、共有の有無、預貯金等の配分、代償金、相続税額が異なる5つの遺産分割案を作成しました。最終的に選ばれたのは、相続人の1人が自宅及び主要財産を取得し、他の2人へ代償金を支払う分割です。

事例掲載にあたって

個人が特定されないよう、地域、金額その他の情報を一部変更又は丸めています。また、以下は本件で確認した資料と事情に基づく事例であり、同じように見える相続でも特例の適用可否や適切な分割方法が同じになるとは限りません。

事例の概要と結論

相続税申告事例の概要
地域名古屋市内
被相続人
相続人子3人
主な財産自宅土地・建物、預貯金等
財産総額約1.1億円
主な税務上の検討自宅を所有していない親族に関する小規模宅地等の特例の適用要件
主な分割上の検討自宅の取得者、共有の有無、預貯金等の配分、代償金
比較した遺産分割案5案
最終的な分割1人が自宅及び主要財産を取得し、他の2人へ代償金を支払う
相続税総額約400万円

今回の中心となったのは、母が所有していた自宅と預貯金等を、子3人でどのように分けるかという問題でした。

預貯金等であれば金額で分けられますが、自宅の土地と建物は、現物のまま均等に分けることができません。複数の相続人で共有するという方法もあります。ただしその場合、将来自宅を管理したり、修繕や売却をしたりする場面で、共有者どうしの調整が生じることがあります。

1人が自宅を取得する形にすると、他の相続人との取得額の差をどう埋めるかという課題が残ります。加えて本件では、誰が自宅を取得するかによって、小規模宅地等の特例の適用関係も変わりました。

そこで当事務所では、自宅の取得者、小規模宅地等の特例、共有の有無、預貯金等の配分、代償金及び相続税額を変えた5案を作成し、相続人へお示ししました。選ばれたのは、小規模宅地等の特例の要件を満たす相続人の1人が自宅及び主要財産を取得し、他の2人へ代償金を支払う案です。

この案が選ばれた理由は、相続税が最も少ないことだけではありません。税額に加えて、自宅を共有しないこと、相続後の管理や売却に関する意思決定を行いやすくすること、他の相続人との取得額を代償金で調整することなども含めて比較した結果です。

最初に確認したのは小規模宅地等の特例の適用関係

遺産分割案を組み立てる前に整理したのは、自宅敷地について小規模宅地等の特例を適用できるのは誰か、という点でした。

小規模宅地等の特例は、被相続人等が居住や事業に使用していた一定の宅地等について、要件を満たす場合に相続税評価額を減額する制度です。このうち被相続人の居住用宅地にあたる特定居住用宅地等では、その宅地を取得する人の立場によって適用要件が異なります。

本件でも、最終的に自宅を取得した相続人が取得する案では特例の要件を満たす一方、他の相続人が自宅を取得する案では要件を満たしませんでした。自宅を誰が取得するかは、相続後の所有関係だけでなく、相続税総額にも関わる重要な論点でした。

いわゆる「家なき子」の要件とは

本件で検討したのは、自宅を所有していない親族に関する特定居住用宅地等の要件、いわゆる「家なき子」の要件です。なお、「家なき子」は通称であり、法令上の正式名称ではありません。

被相続人の配偶者でも同居親族でもない親族が自宅敷地を取得する場合には、確かめるべき事項が複数あります。被相続人の配偶者及び同居相続人の有無、相続開始前の居住家屋の所有関係、相続開始時に居住していた家屋の過去の所有状況、取得後の宅地の保有状況などです。国税庁は、この類型について複数の要件をすべて満たすことを求めています。

賃貸住宅に居住しているという事実だけで、直ちに特例を適用できるわけではありません。相続関係、居住関係、家屋の所有関係、そして申告期限までの保有状況を、資料に基づいて一つずつたどっていくことになります。

戸籍・住民票・賃貸借契約書などで確認したこと

戸籍・住民票・戸籍の附票で確認したこと

本件では、まず戸籍、住民票及び戸籍の附票にあたりました。これらの資料から読み取ったのは、被相続人と相続人との関係、被相続人の配偶者の有無、被相続人との同居関係、相続人の住所の履歴などです。

いわゆる「家なき子」の要件は、自宅を所有していないという一点だけで決まるものではなく、被相続人の家族関係や相続開始前の居住関係も含めて検討する必要があったためです。

賃貸借契約書で確認したこと

自宅を取得する相続人については、賃貸住宅の賃貸借契約書にも目を通しました。賃貸借契約書を含む資料から把握したのは、いわゆる「家なき子」に関する要件のうち、居住家屋の所有関係にあたる部分です。

ただし、賃貸借契約書だけで、いわゆる「家なき子」に関するすべての要件を確認したわけではありません。戸籍、住民票及び戸籍の附票から分かる相続関係・居住関係と、賃貸借契約書から分かる居住家屋の所有関係を組み合わせたうえで、特例の適用関係を判断しています。

申告期限までの保有状況を確認

本件では、自宅を取得した相続人が、相続税の申告期限まで自宅敷地を保有しているかどうかも確かめました。

いわゆる「家なき子」に関する検討は、相続開始前の居住関係や所有関係を調べれば終わり、というものではありません。誰が自宅を取得し、申告期限までどのように保有するかという、その後の状況までが対象になります。

自宅の取得方法と相続税額が異なる5案を比較

特例の適用関係を整理したうえで、当事務所では5つの遺産分割案を作成しました。案ごとに変えたのは、自宅の取得者、共有の有無、小規模宅地等の特例の適用関係、預貯金等の配分、代償金、そして相続税額です。

5つの遺産分割案の比較
自宅の取得方法 小規模宅地等の特例 共有の有無 預貯金等・代償金による調整 相続税総額 採否
案1 相続人3人で取得 要件を満たす相続人の取得持分のみ適用 3人の共有が残る 共有持分による取得 約600万円 不採用
案2 要件を満たす相続人1人が取得 適用あり 共有なし 代償金なし 約400万円 不採用
案3 他の相続人2人が取得 適用なし 2人の共有が残る 共有持分による取得 約700万円 不採用
案4 要件を満たす相続人1人が取得 適用あり 共有なし 預貯金等の配分で調整 約400万円 不採用
案5 要件を満たす相続人1人が自宅・主要財産を取得 適用あり 共有なし 他の2人へ代償金 約400万円 採用

案1について補足すると、3人全員の取得持分に特例を適用したのではなく、要件を満たす相続人が取得する持分に限って適用しています。

表のとおり、相続税総額が約400万円となる案は一つではありませんでした。そのため、採用された案は、相続税額だけで決まったものではありません。小規模宅地等の特例の適用関係、自宅を共有するかどうか、預貯金等の取得状況、代償金の有無、将来の不動産管理といった点を見比べたうえで、相続人が最終案を決定しました。

自宅を共有せず代償分割を選択

最終的に選ばれたのは、相続人の1人が自宅及び主要財産を取得し、他の相続人2人へ代償金を支払う分割です。

代償分割とは、共同相続人等のうち1人又は数人が相続財産の現物を取得し、その取得者が他の共同相続人等に対して債務を負担する分割方法です。 本件で代償分割を採用したことにより、自宅を複数の相続人で共有せず、1人の名義にまとめることができました。

ただし、不動産の共有が常に不適切ということではありません。財産の内容、相続人の希望、将来の利用方法、代償金の支払原資によっては、共有が選ばれる場合もあります。

本件では、将来、自宅の管理、修繕又は売却が必要となった場合に意思決定を行いやすくすることも考慮したうえで、相続人が自宅を共有しない案を選択しました。なお、代償金の具体的な金額は、個人情報保護のため掲載していません。

相続税評価額と時価の参考値を分けて検討

相続税申告では、土地を相続税上の評価方法により評価します。一方、相続人の間で代償金を検討する場面では、相続税評価額をそのまま土地の取引価格とみなすことが適切とは限りません。

そこで本件では、相続税評価額だけで機械的に代償金を決めることはせず、時価の参考値もあわせて確認しました。

この時価の参考値は、不動産鑑定評価による価格でも、実際の売却価格でもありません。土地の形状、接道状況、利用上の制約、地域の取引状況などを個別に反映した確定的な市場価格ではないため、土地の価格水準を検討するための参考値として使用しました。

相続税の計算に使用する評価額と、代償金を検討するために参照した時価の参考値とは、性質の異なるものです。この点を区別したうえで、各分割案を相続人へお示ししました。

相続人が最終案を決定するまでの流れ

遺産分割方法を最終的に決めたのは当事務所ではなく、5案を比較した相続人です。本件では、次の順序で進めました。

遺産分割案を決めるまでの6段階の流れ。相続人が大筋の希望を共有し、当事務所が財産・評価・特例を確認して5案を作成・提示し、相続人が最終案を決定した後、協議書・申告書へ反映する流れ
当事務所が複数案を作成・提示し、各案を比較した相続人が最終案を決定しました。
  1. 相続人が大筋の希望を共有
  2. 当事務所が財産、評価及び小規模宅地等の特例を確認
  3. 当事務所が5つの遺産分割案を作成・試算
  4. 当事務所が各案を相続人へ提示
  5. 相続人が各案を比較し、最終案を決定
  6. 当事務所が決定内容を遺産分割協議書及び相続税申告書へ反映

当事務所が特定の分割方法を一方的に決定したわけではありません。相続人が判断しやすいよう、各案の相続税額、特例の適用関係、共有の有無、預貯金等の取得状況、代償金の違いを整理してお示ししました。

確認した内容を税理士法33条の2の書面へ記載

本件の相続税申告書には、税理士法33条の2に基づく書面を添付しました。国税庁は、この書面添付制度について、税理士が申告書をどのように調製したかを明らかにし、正確な申告書の作成・提出に資する制度と説明しています。

同書面の確認書類欄には賃貸借契約書を挙げ、自宅を所有していない親族に関する特例要件を確認した旨を記載しています。また、書面添付に関するチェックシートにも、相続開始時に居住している家屋を過去に所有していないことを証する書類について、確認した記録を残しました。

あわせて、土地評価、小規模宅地等の特例及び預貯金等について、申告書を作成する過程で確かめた事項も記載しています。

税理士法33条の2の書面を添付することは、税務調査が行われないことや、申告内容について税務署から確認を受けないことを保証するものではありません。

この事例から分かること

  • 小規模宅地等の特例は、自宅を誰が取得するかによって適用関係が変わることがある
  • いわゆる「家なき子」の要件は、賃貸住宅に住んでいるという事実だけでは判断できない
  • 戸籍、住民票、戸籍の附票、賃貸借契約書及び申告期限までの保有状況などを確認する必要がある
  • 相続税額が同程度でも、自宅の所有者、共有関係及び代償金の有無によって、相続後の状態は異なる
  • 代償金を検討する際には、相続税評価額と時価の参考値を分けて考える必要がある
  • 税理士が複数案を作成・試算しても、最終的な遺産分割方法を決定するのは相続人である

代償分割がどの相続にも適しているわけではありません。財産の構成、特例の適用要件、相続人の希望、代償金の支払原資、将来の不動産管理といった事情を踏まえ、複数の分割方法を並べて比較することが大切です。

よくある質問

Q1. 賃貸住宅に住んでいれば、いわゆる「家なき子」の要件を満たしますか?

賃貸住宅に住んでいるという事実だけでは判断できません。被相続人の配偶者や同居相続人の有無、相続開始前の居住家屋の所有関係、現在居住している家屋の過去の所有状況、取得した宅地の申告期限までの保有状況など、複数の要件を確認する必要があります。

Q2. 小規模宅地等の特例を使える人が自宅を取得する案が、必ず最善ですか?

必ずしもそうとは限りません。本件でも税額だけでなく、自宅を共有するか、預貯金等をどのように配分するか、代償金を支払えるか、相続後に不動産をどのように管理するかといった点を合わせて比較しました。

Q3. 代償分割とはどのような方法ですか?

特定の相続人が不動産などの現物財産を取得し、その代わりに他の相続人へ金銭等を支払う方法です。不動産を共有せずに取得者をまとめたい場合の選択肢になりますが、代償金の支払原資や金額の決め方なども含めて検討する必要があります。

Q4. 相続税額が同じ案が複数ある場合、何を比較すればよいですか?

本件では、相続税額に加えて、不動産の共有の有無、各相続人が取得する財産の内容、代償金の有無、将来の管理・修繕・売却時の意思決定などを比較しました。どの項目を重視するかは、財産構成と相続人の希望によって変わります。

Q5. 戸籍や賃貸借契約書などの資料がまだそろっていなくても相談できますか?

はい。まず現在分かっている財産や相続人の状況を整理し、特例の適用可否を確認するために何の資料が必要かを洗い出すことができます。申告期限もあるため、資料が完全にそろうまで待たず、早めに全体像を確認しておくと進めやすくなります。

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    免責事項

    この記事は、実際の相続税申告事例をもとに、個人が特定されないよう情報を一部変更・簡略化して紹介したものです。掲載内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の相続について特例の適用可否、相続税額、遺産分割方法その他の結果を保証するものではありません。税制や通達等は改正されることがあるため、具体的な判断は最新の法令等と個別事情を確認したうえで行う必要があります。

    参考資料

    著者情報

    佐治 英樹(さじ ひでき)
    佐治 英樹(さじ ひでき)税理士(名古屋税理士会 登録番号_113665), 行政書士(愛知県行政書士会 登録番号_11191178), 宅地建物取引士(愛知県知事), AFP(日本FP協会)
    「税理士業はサービス業」 をモットーに、日々サービスの向上に精力的に取り組む。
    趣味は、筋トレとマラソン。忙しくても週5回以上走り、週4回ジムに通うのが健康の秘訣。

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