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相続の手続きの負担を少しでも軽くしたい方へ。名古屋の相続専門税理士・佐治英樹が解説します。

相続の手続きは、ただでさえ心身ともに負担が大きいものです。役所に行き、銀行に行き、電気・ガス・水道の連絡をして……と、何度も同じ説明を繰り返した経験がある方も多いでしょう。こうした中で、引っ越しの手続きをスマホからまとめて行えるサービス「ペンリィ」が始まり、今後は死亡・相続の手続きもワンストップ化していく構想が示されています。

本記事は、名古屋で相続のご相談を多数お受けしてきた税理士・佐治英樹が監修し、「ペンリィと相続の近未来」をやさしく整理します。「便利そうだけれど、本当に大丈夫？」「どこまで任せて良いの？」という感覚を持つ方に向けて、期待できる点と、まだ見えていない課題の両方をお伝えします。

この記事では、次の問いに順番にお答えします。

1. いま話題の「ペンリィ」とは？まずは仕組みをやさしく整理

まずは、名前だけが一人歩きしがちなペンリィの正体を、相続とは切り離してシンプルに整理します。

ペンリィは、株式会社生活基盤プラットフォームという会社が提供する、ライフイベントに伴う手続きのワンストップサービスです。第一弾として「引っ越し」に特化し、スマホから次のような手続きをまとめて行えるようにすることを目指しています。

• 全国1,741の全自治体への
  • 転出届
  • 転入・転居予約
• 地方銀行・第二地方銀行 合計66行への
  • 住所・連絡先変更の手続き

手続きの入口は、スマホやパソコンのブラウザからアクセスするペンリィのウェブサイトです。利用者はマイナンバーカードとスマホを使い、デジタル認証アプリ等を通じて本人確認と電子署名を行ったうえで、必要な情報を一度入力します。すると、その情報が、対応する自治体や金融機関に安全に連携される仕組みです。ここには、NTTデータの「BizMINT（びずみんと）」という個人データ流通基盤と、「BizPICO（びずぴこ）」というマイナンバーカードを使った本人確認サービスが組み込まれています。

現時点で公式に示されているロードマップとしては、次のように説明されています。

• 2026年春頃：
  • 参加金融機関の口座について、口座振替をオンラインで登録できる「ネット口振（ペンリィ）」を提供予定
• 2026年11月頃：
  • 電気・ガス・水道などの生活インフラの停止・開始手続きを、ペンリィから行える仕組みを提供予定

一言でまとめると、ペンリィは「引っ越しのたびに、自治体・銀行・インフラにバラバラに連絡していた世界を、ひとつの入り口にまとめようとしているサービス」とイメージすると分かりやすいと思います。

2. デジタル遺言書・口座管理法…「デジタル×相続」の第一波・第二波

ペンリィは、相続の世界に突然現れた“ポッと出”ではありません。ここ数年続いている「デジタル×相続」の流れの上に、“第三のプレーヤー候補”として登場してきた存在だと捉えると理解しやすくなります。

すでに動き始めている「第一波」「第二波」を、簡単に振り返っておきましょう。

第一波：デジタル遺言書 ― 「つくる」段階のデジタル化

第一波は、いわゆるデジタル遺言書です。スマホやパソコンから遺言書を作成できるサービスや、将来の法整備に向けた議論が進んでおり、「紙ではなくデジタルで遺言を残したい」というニーズに応えようとしています。

しかし、現時点での実務上のポイントとして、次のようなギャップもあります。

• 「いますぐ全てがスマホ遺言に置き換わる」わけではない
• 法律上の要件を満たさない“なんちゃって遺言”にならないように注意が必要

デジタル遺言書については、別の記事で詳しく整理しています。

👉 詳しくはこちら：

デジタル遺言書は本当に大丈夫？注意しておきたいポイント

第二波：口座管理法・相続時口座照会 ― 「探す」段階のデジタル化

第二波は、口座管理法（こうざかんりほう）や相続時口座照会（そうぞくじこうざしょうかい）です。マイナンバーと預貯金口座をひも付けることで、相続が発生したときに故人名義の口座をまとめて把握しやすくすることを狙った制度です。

これにより、

• 「どの銀行にどれだけ口座があるか分からない」
• 「通帳が見つからない銀行がある」

といった悩みが、一定程度やわらぐことが期待されています。

なお、マイナンバーの登録は任意であり、マイナンバーが登録されていない口座や制度の対象外となる金融機関の口座は、この仕組みだけでは把握できません。そのため、「これだけで全ての口座が自動的に分かる」というわけではない点には注意が必要です。

口座管理法や相続時口座照会の仕組み・メリットと限界については、相続手続きの実務の流れとあわせて、こちらの記事で詳しく解説しています。

👉 詳しくはこちら：

口座管理法と相続時口座照会で「通帳探し」はどこまで楽になる？

共通するゴール：「家族の負担を減らす」

デジタル遺言書も、口座管理法も、目指している方向は共通しています。

• 手続きや情報探しのムダな負担を減らし
• 相続人の時間とエネルギーを守る

というゴールです。ペンリィもまた、違う角度からこのゴールに近づこうとしている存在だと考えられます。

3. 「第三の波」としてのペンリィ：相続手続きをどう変え得るのか

ここからが、本記事の中心部分です。ペンリィは、いまのところ「引っ越し」の手続きを対象にしていますが、公式なリリースでは、将来の構想として「死亡・相続」を含むライフイベント手続きのワンストップ化・オンライン化を目指すと明言されています。

厳密な分類というより、「流れをつかむためのイメージ」として、次のように整理できます。

• 第一波：デジタル遺言書（つくる段階のデジタル化）
• 第二波：口座管理法・相続時口座照会（探す段階のデジタル化）
• 第三の波のプレーヤー候補：ペンリィ（各種窓口への“連絡”段階のデジタル化）

相続に関係しそうなペンリィの機能

ペンリィが相続に広がる場合、具体的には次のような領域に関わる可能性があります。

• 相続人の住所・連絡先の変更（引っ越しに伴う情報更新）
• 電気・ガス・水道・NHKなどの生活インフラの停止・名義変更
• 金融機関に対する届出情報の更新

つまり、「相続が発生したあと、どこに何を連絡すればよいか分からない」という混乱を減らし、ひとつの入り口から順番に案内してもらうイメージです。

ペンリィに期待できること／一方で、いま見えている課題

ここが期待できるところ

• 手続き先の“地図”を一枚にしてくれる
  → どのタイミングで、どこに何を出せば良いのかが、これまでより分かりやすくなる可能性があります。
• 事務的な負担の軽減
  → 住所や連絡先など、同じ情報を何度も書き直す回数が減り、ミスも減りやすくなります。
• 情報の行き違いが減る
  → 古い住所のまま重要書類が送られてしまう、といったトラブルのリスクを抑えやすくなります。

一方で、こんな課題もあります

• データの一極集中
  → ライフライン、金融、行政手続きの入り口が一つに集まるほど、もし情報事故が起きた場合の影響範囲は大きくなります。
• 「誰がどこまで責任を持つのか」というルールの問題
  → 行政・金融機関・民間プラットフォームの間で、どこまで誰が責任を負うのかというガバナンス（サービスをどのようなルールで運営し、誰がチェックするか）の設計が、今後の重要なテーマになります。
• すべての家族・ケースをカバーできるわけではない
  → 再婚家庭、事実婚、音信不通の相続人など、家族関係が複雑なケースでは、結局「別ルート」の手続きや個別相談が必要になる可能性も高いです。

大切なのは、ペンリィは「相続のすべてを代わりにやってくれる魔法の箱」ではなく、うまく使えばかなり心強いインフラ候補である、という少し引いた見方です。

4. ペンリィに任せられる手続き／任せられない手続き

ここからは、読者の方が一番気になるであろう「結局、どこまで頼って良いの？」という問いに、少し具体的に答えていきます。

ペンリィ（のような仕組み）に任せられそうな部分

ペンリィや似た仕組みが得意なのは、定型的で、情報さえそろえば自動処理しやすい領域です。

• 住所・連絡先の変更
  → 自分の住所が変わったときに、複数の金融機関にまとめて届け出る／引っ越しにともなう自治体への届出をまとめて行う
• 生活インフラの停止・開始、名義変更の一部
  → 電気・ガス・水道・NHKなどへの連絡を、一つの画面から順番に進める
• 申請書の自動作成や、必要項目の自動入力
  → 何度も同じ氏名・住所を書く手間を減らす

こうした部分は、仕組みに任せれば任せるほど楽になる可能性が高い領域です。

それでも人が必要な部分 ― 話し合いと判断

一方で、どれだけデジタル化が進んでも、人と人との話し合いや判断が必要な部分は残ります。

• 遺産分割（いさんぶんかつ）の話し合い
  → 兄弟姉妹の事情／親の介護を誰がどれだけ担ってきたか／将来、どの家族がどこに住む予定なのか
• 相続税の申告が必要かどうかの判断
  → 税務署から指摘されたときの対応方針／家族にとって「フェア」と感じられる落としどころを探すプロセス

これらは、フォームに情報を入れれば答えが出る、という種類の問題ではありません。

「全部デジタル」でも「全部自分で」でもない、第3の選び方

ポイントは、「全部をデジタルでやる」か「全部を自力でやる」かの二者択一ではない、ということです。

• ペンリィのような仕組みで事務的な負担をできるだけ軽くし
• そのぶん空いた時間と気力を、話し合いや判断が必要な部分に回す
• それでも迷う部分は、専門家に相談して整理する

こうした“役割分担”の発想を持っておくと、今後サービスが広がってきたときに、賢く使いやすくなります。「土地や不動産が絡む場合には、個別の事情によって最適な判断が変わる」という前提だけ押さえておき、必要になったときに専門家と一緒に検討すれば十分です。

5. 今からできる備え：デジタルと専門家をうまく組み合わせるコツ

ここまで読むと、「将来ペンリィが相続にも対応してくれるとして、今の自分にできることは何だろう？」という疑問が自然に湧いてくると思います。この章では、今日からでもできる小さな準備に落とし込んでみます。

5-1. デジタル側の準備：土台を整えておく

まずは、ペンリィに限らず、今後増えていくであろうオンライン手続きに備えて、土台となる部分を整えておきましょう。

マイナンバーカードの確認

• 有効期限が切れていないか
• 暗証番号を完全に忘れていないか

自分名義の契約やアカウントの棚卸し

• 銀行口座
• 証券口座
• 電気・ガス・水道・通信
• サブスクリプションサービス

「家族の誰が何を把握しているか」を共有する

一人だけが全部握っている状態は、デジタル時代の新しいリスクでもあります。

センターの「デジタル終活」記事では、このあたりをもう少し具体的にステップ分けしてご紹介していますので、「何から書き出せばいいか分からない」という方は、そちらも参考になるはずです。

5-2. 制度側の理解：口座管理法・相続時口座照会を押さえる

次に、すでに動き始めている口座管理法・相続時口座照会について、大まかなイメージを持っておくと安心です。

• 口座管理法により、マイナンバーと預貯金口座をひも付けることで、相続時に口座を一覧しやすくする狙いがある
• 相続時口座照会を使えば、複数の金融機関に一括して照会できる仕組みが整いつつある

これらは、ペンリィとは別ルートの「口座を探す」仕組みですが、目指す方向は同じです。将来、ペンリィのようなサービスと組み合わさると、

• どこに口座があるのかを把握し
• その口座に対する住所変更や名義変更に進む

といった流れが、よりスムーズになる可能性があります。

5-3. 専門家側の準備：「いざというときの相談先」を決めておく

最後に、専門家との付き合い方です。いざ相続が発生してから、

• ネットで検索し
• どの事務所に連絡すべきか迷い
• 電話をかける気力が出ない

という声は、実際によく耳にします。

そうなる前に、

• 「うちの場合は、どこまでオンラインに任せられそうか」
• 「どんな財産がありそうか」
• 「名古屋特有の事情で気をつけた方が良い点は何か」

を、元気なうちに一度だけ相談しておくと、その後の安心感が大きく変わります。

名古屋相続税無料診断センターでは、

• 相続税がかかるかどうかの概算診断
• 手続き全体の流れの整理
• 今のうちからできる準備のアドバイス

を、初回無料で行っています。ペンリィや口座管理法など「デジタル×相続」の流れも踏まえながら、「仕組みでできる部分」と「人に任せた方が良い部分」の線引きを、一緒に整理することが可能です。

6. まとめ：「全部自分で」でも「全部おまかせ」でもない選び方を

ここまで、ペンリィと相続の近未来を見てきました。最後に、ポイントを3つに絞って振り返ります。

1. ペンリィの位置づけです。ペンリィは、引っ越しの際に必要となる自治体・銀行の手続きをスマホからまとめて行えるサービスとしてスタートし、将来的には妊娠・出産・子育て・死亡・相続など、さまざまなライフイベントの手続きのワンストップ化・オンライン化を目指す構想が示されています。
2. 「デジタル×相続」の流れの中での位置です。デジタル遺言書は「遺言をつくる」部分、口座管理法・相続時口座照会は「口座を探す」部分を主に楽にしようとする動きでした。ペンリィは、それらと並ぶ形で「各種窓口に連絡する」部分を軽くしようとしている、第三のプレーヤー候補だと言えます。
3. それでも人が必要な領域が残るという事実です。どれだけデジタル化が進んでも、遺産分割の話し合いや、家族の事情を踏まえた判断、税務上のリスクを見据えた選択といった部分は、仕組みだけでは代わりにできません。むしろ、ペンリィのようなサービスで事務的な負担が軽くなるほど、人間が向き合うべき部分がくっきりと浮かび上がるとも言えます。

また、ペンリィのような仕組みは、便利さと引き換えに、「どこに情報が集まり」「誰がその安全性や公平性を見守るのか」というガバナンス上の課題も抱えています。仕組みそのものを恐れる必要はありませんが、「どういうルールで動いているサービスなのか」をざっくり知っておくことは、これからの相続の安心材料の一つになるでしょう。

まとめると、「全部デジタル」か「全部自力」かではなく、「仕組みに任せるところ」と「専門家に相談するところ」を上手に分けながら進めていく、というスタンスが現実的な選び方だと考えています。

名古屋相続税無料診断センターは、こうした新しい仕組みの動きも踏まえつつ、「結局うちの場合はどうすれば良いのか」を一緒に整理するお手伝いをしています。ニュースや制度の情報に追われるのではなく、「自分の家族の話」に落とし込んで考えてみたい方は、ぜひ一度、気軽にご相談ください。

ペンリィは、引っ越し時の転出届や銀行の住所変更などをスマホから一括で行える新サービスで、将来的に死亡・相続などライフイベント手続きのワンストップ化も構想されています。本記事では、デジタル遺言書や口座管理法といった「デジタル×相続」の流れの中でのペンリィの位置づけを整理し、どこまで仕組みに任せられるか、どこから専門家の関与が必要かを分かりやすく解説しました。