【令和6年分】「暦年課税」と「相続時精算課税」どっちが選ばれた?国税庁が令和7年5月の公表資料を基に解説!

「暦年課税及び相続時精算課税別の申告状況の推移」というタイトルが付いた棒グラフと折れ線グラフを組み合わせた図。平成27年度から令和6年度までの暦年課税と相続時精算課税それぞれの申告納税額(折れ線グラフ)と、申告人員(申告納税がない方とある方の棒グラフ)の推移が示されている。

「誰かに何かをあげる」こと、つまり「贈与」に税金がかかる場合があるのをご存知ですか?この記事では、複雑そうに見える贈与税の仕組み、特に最近注目されている「相続時精算課税」の新制度について、誰にでも分かるように丁寧に解説します。ご自身の状況に合わせて最適な方法を考える第一歩にしてください。

そもそも贈与税って? – 知っておきたい『基本のキ』

まず押さえておきたいのは、個人から財産をもらった時にかかる税金が贈与税 (ぞうよぜい) であるということです。なぜこのような税金があるかというと、もし贈与税がなければ、亡くなる直前に全ての財産を贈与することで相続税を不当に免れることが可能になってしまうからです。贈与税は、そうした相続税逃れを防ぎ、税の公平性を保つために存在します。いきなり「税金」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、これは私たちの社会の仕組みを支える大切なルールの一つなのです。

「プレゼントをもらうのにも税金がかかるの?」と驚かれるかもしれませんが、全ての贈与に税金がかかるわけではありません。贈与税には基礎控除 (きそこうじょ) というものがあり、一年間(1月1日から12月31日まで)にもらった財産の合計額がこの基礎控除額以下であれば、贈与税はかからず申告も不要です。この基礎控除額は、後述する「暦年課税」という制度において、現在110万円と定められています。つまり、年間110万円までの贈与であれば、基本的には心配無用と考えてよいでしょう。

では、どのような場合に贈与税の申告が必要になるのでしょうか。それは、一年間にもらった財産の合計額が基礎控除額の110万円を超える場合です。例えば、ある年にAさんから100万円、Bさんから50万円をもらった場合、合計150万円となり110万円を超えるため、その超えた部分(40万円)に対して贈与税がかかる可能性があります。また、特定の高額な財産(不動産や株式など)の贈与を受けた場合も、金額に関わらず専門家への相談を検討した方がよいでしょう。自分は大丈夫と思っていても、後から問題になるケースも考えられます。

贈与税は個人から財産をもらった時にかかる税金で、相続税の補完的役割があります。年間110万円の基礎控除額以下なら基本的に非課税ですが、超える場合は申告が必要になることを覚えておきましょう。

贈与税の2つの選択肢:『暦年課税』と『相続時精算課税』

贈与税の計算方法には、大きく分けて二つの制度、「暦年課税 (れきねんかぜい)」と「相続時精算課税 (そうぞくじせいさんかぜい)」があることを理解しましょう。どちらを選ぶかによって、税金の計算方法や将来の相続税への影響が大きく変わってきます。これは、贈与をする人(贈与者)ともらう人(受贈者)の関係性や、贈与する財産の額、将来の計画などによって、どちらが有利になるかが異なるため、慎重な選択が求められるポイントです。

暦年課税」とは、1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与された財産の合計額に対して課税される、最も一般的な方法です。この制度の最大のポイントは、先ほども触れた年間110万円の基礎控除が利用できることです。つまり、毎年110万円までの贈与であれば贈与税がかからず、申告も不要となります。この暦年課税は、毎年コツコツと非課税で財産を移転したい場合に有効な手段と言えるでしょう。多くの方がイメージする贈与税はこの暦年課税にあたります。

一方、「相続時精算課税」は、原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上(令和4年3月31日以前の贈与については20歳以上)の子または孫に対して贈与が行われる場合に選択できる制度です。この制度では、最大2,500万円までの贈与について特別控除が適用され、贈与時にはその範囲内であれば贈与税がかかりません(ただし、2,500万円を超えた分には一律20%の税率で課税)。重要なのは、この制度で贈与された財産は、贈与者が亡くなった際に相続財産に加算されて相続税が計算される点です。つまり、贈与税は一旦抑えられるものの、最終的に相続税で精算される仕組みなのです。

これら二つの制度は、以前は一度「相続時精算課税」を選択すると、その贈与者からの贈与については二度と「暦年課税」に戻ることができないという、非常に重要なルールがありました。そのため、相続時精算課税の選択は慎重な判断が必要とされてきました。しかし、この点に関して最近大きな変更がありましたので、次のセクションで詳しく見ていきましょう。どちらの制度も一長一短があるため、メリット・デメリットを正しく理解することが大切です。

贈与税には毎年110万円まで非課税の「暦年課税」と、将来の相続時に精算する「相続時精算課税」(2,500万円まで特別控除)の2種類があります。以前は相続時精算課税を選ぶと暦年課税に戻れませんでしたが、この点に変化がありました。

注目!『相続時精算課税』が新しくなった? – 最新データから見える変化

最近のデータを見ると、贈与税の申告において「相続時精算課税」制度を選択する人が目立って増えていることが分かります。国税庁が令和7年5月に発表した「令和6年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」という資料によると、相続時精算課税を適用した申告人員は前年比でなんと59.2%も増加しています。これは、多くの人がこの制度に注目し、活用し始めている証拠と言えるでしょう。では、なぜこのような変化が起きているのでしょうか。

この急増の背景には、2024年1月1日からの相続時精算課税制度の大幅な改正が影響しています。これまで、相続時精算課税は「使いにくい」と感じる方も少なくありませんでした。なぜなら、一度選択すると暦年課税の基礎控除(年間110万円)が使えなくなり、少額の贈与でも相続財産に加算されてしまう可能性があったからです。しかし、今回の改正でそのデメリットが一部解消され、より柔軟な活用が期待できるようになりました。この変化が、多くの人の関心を集めているのです。

具体的に何が変わったかというと、最も大きなポイントは、従来の2,500万円の特別控除とは別に、相続時精算課税制度にも年間110万円の「基礎控除」が新たに設けられたことです。この新しい基礎控除は、暦年課税の基礎控除とは全く別のものです。この新設された基礎控除の範囲内(年間110万円まで)の贈与であれば、贈与税の申告が不要となり、さらに将来、贈与者が亡くなった際に相続財産に加算する必要もなくなりました。これは非常に画期的な変更点と言えます。

この新しい基礎控除の創設により、相続時精算課税を選択した場合でも、毎年少額の贈与であれば、暦年課税のように非課税で、かつ相続財産への影響も気にせずに行える道が開かれました。つまり、これまでは「2,500万円の大きな枠を使うか、毎年110万円の小さな枠を使い続けるか」という二者択一に近いイメージでしたが、これからは「大きな枠を使いつつ、毎年小さな非課税枠も活用する」という新しい選択肢が生まれたのです。これにより、贈与の戦略が大きく変わる可能性があります。

相続時精算課税の利用者が最近急増しており、その理由は2024年からの制度改正です。特に、年間110万円の新しい基礎控除が創設され、暦年課税の基礎控除とは別に利用できるようになった点が大きな変化です。

新しい相続時精算課税、どう使う?メリットと注意点

新設された年間110万円の基礎控除によって、「相続時精算課税」は以前よりも格段に利用しやすくなったと言えるでしょう。特に、これまで「相続時精算課税を選ぶと、毎年コツコツ非課税で贈与できる暦年課税のメリットがなくなる」と躊躇していた方にとっては朗報です。少額の贈与を継続的に行いたいけれど、将来的にまとまった財産の贈与も視野に入れている、といった場合に、新しい相続時精算課税は有力な選択肢となり得ます。

この新しい基礎控除の最大のメリットは、年間110万円以下の贈与であれば、贈与税の申告が不要であり、かつ相続財産への持ち戻し(加算)も必要ないという点です。これは、暦年課税の基礎控除と同じような感覚で利用できることを意味します。加えて、相続時精算課税の本来のメリットである2,500万円の特別控除枠も依然として存在するため、大きな金額の贈与にも対応できます。つまり、柔軟性が増したと言えるでしょう。

しかし、いくつか注意すべき点も残っています。最も重要なのは、一度ある贈与者(例えば父)から相続時精算課税を選択して贈与を受けると、その後、その同じ贈与者(父)からの贈与については、二度と暦年課税に戻ることができないという原則は変わっていません。つまり、年間110万円の新しい基礎控除を使えるようにはなりましたが、暦年課税の基礎控除と二重で使えるわけではないのです。この点は誤解しやすいため、十分な理解が必要です。

また、相続時精算課税は、将来値上がりすることが確実に見込まれる財産(例えば、開発予定地や成長企業の未公開株など)を、値上がりする前に低い評価額で贈与しておくといった特定のケースで大きな節税効果を発揮することがあります。しかし、全てのケースで有利になるとは限りません。例えば、相続財産が基礎控除以下で相続税がかからない見込みの方にとっては、あえて相続時精算課税を選ぶメリットは少ないかもしれません。安易な選択は避け、専門家とよく相談することが重要です。

新しい相続時精算課税は年間110万円まで申告・持ち戻し不要で使いやすくなりましたが、一度選ぶと暦年課税には戻れない点は注意が必要です。特定のケースで有効ですが、安易な選択はせず専門家への相談をおすすめします。

あなたに最適なのは?制度選択のヒント

結局のところ、「暦年課税」と新しい「相続時精算課税」、どちらがあなたにとって最適なのかは、一概には言えません。それは、あなたの家族構成、財産の種類や金額、将来のライフプランや相続に対する考え方など、多くの要素が絡み合ってくるからです。税制度はあくまで道具であり、その道具をどう使うかは、あなたの目的によって変わってきます。焦らず、じっくりと情報を集め、検討することが大切です。

例えば、毎年少しずつ、非課税の範囲内で子供や孫に資金援助をしたい、ということであれば、従来通り「暦年課税」の年間110万円の基礎控除を活用するのがシンプルで分かりやすいでしょう。一方、事業承継のために自社株をまとめて後継者に贈与したい、あるいは、子供の住宅取得資金として一度に大きな金額を援助したい、といった場合には、「相続時精算課税」の2,500万円の特別控除と、新設された年間110万円の基礎控除を組み合わせることを検討する価値があります。

最も重要なのは、目先の贈与税額だけにとらわれず、将来発生するであろう相続まで含めたトータルで考える視点を持つことです。贈与は、相続対策の有効な手段の一つですが、やり方によってはかえって不利になることもあります。例えば、相続時精算課税を選択したものの、結果的に相続税の負担が増えてしまうケースも考えられます。だからこそ、長期的な視点でシミュレーションを行い、比較検討することが不可欠なのです。

今回の相続時精算課税制度の改正は、私たちにとって贈与の選択肢を増やし、より柔軟な計画を立てることを可能にしました。しかし、同時に制度がより複雑になったとも言えます。どの制度が自分に合っているのか、どう活用すればメリットを最大限に引き出せるのかを一人で判断するのは難しい場合も多いでしょう。だからこそ、税金の専門家である税理士に相談し、客観的なアドバイスを求めることが、これまで以上に重要になってきているのです。

最適な贈与方法は個々の状況で異なり、暦年課税が合う場合もあれば、新しくなった相続時精算課税が適する場合もあります。将来の相続まで見据え、専門家のアドバイスも参考に総合的に判断することが重要です。

この記事のまとめ

贈与税には毎年110万円非課税の暦年課税と、将来精算する相続時精算課税があります。2024年から相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除が新設され、より使いやすくなりました。どちらが良いかは状況次第なので、専門家と相談し最適な方法を選びましょう。

よくあるご質問(FAQ)

  • Q: 贈与税の申告はいつまでに行う必要がありますか?

    A: 贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に申告と納税を行う必要があります。

  • Q: 相続時精算課税を選択した場合、必ず申告が必要ですか?

    A: 最初に相続時精算課税を選択する年は、贈与額に関わらず(たとえ新設された110万円の基礎控除以下であっても)、「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出する必要があります。翌年以降は、年間110万円以下の贈与であれば申告は不要です。

  • Q: 暦年課税と相続時精算課税の年間110万円の基礎控除は、両方同時に使えますか?

    A: いいえ、同じ贈与者からの贈与に対しては、どちらか一方の制度を選択することになります。したがって、両方の基礎控除を同時に使うことはできません。ただし、異なる贈与者からであれば、例えば父からは相続時精算課税(新しい基礎控除利用)、母からは暦年課税(基礎控除利用)という形で贈与を受けることは可能です。

  • Q: 孫への贈与でも相続時精算課税は使えますか?

    A: はい、原則として60歳以上の祖父母から18歳以上の孫への贈与であれば、相続時精算課税を選択できます。

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贈与税の制度は複雑で、特に相続時精算課税の新しいルールは専門的な知識が必要です。「自分の場合はどちらの制度がお得?」「手続きはどうすればいいの?」といった疑問やお悩みは、一人で抱え込まず専門家にご相談ください。

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    参考資料

    著者情報

    佐治 英樹(さじ ひでき)
    佐治 英樹(さじ ひでき)税理士(名古屋税理士会 登録番号_113665), 行政書士(愛知県行政書士会 登録番号_11191178), 宅地建物取引士(愛知県知事), AFP(日本FP協会)
    「税理士業はサービス業」 をモットーに、日々サービスの向上に精力的に取り組む。
    趣味は、筋トレとマラソン。忙しくても週5回以上走り、週4回ジムに通うのが健康の秘訣。

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