寄付で節税?知らなきゃ損する「譲渡所得の非課税特例」完全ガイド

「良いことに使ってほしい」その想いで行う寄付。実は、寄付する財産の種類や相手によっては、思わぬ税金の負担が生じることがあります。しかし、一定の条件を満たせば、その税金が軽くなる、あるいはゼロになるかもしれない特別な制度があることをご存知でしょうか?この記事では、そんな「公益法人等への寄付と税金」の賢い付き合い方を、専門知識がない方でも一歩進んだ理解ができるよう、丁寧に解説していきます。
寄付と税金の基本:なぜ『非課税特例』があるの?
「誰かに何かを無償で譲る」という行為、つまり寄付ですが、これに税金が関わってくるのはなぜでしょうか。それは、財産が値上がりしていた場合、その「値上がり益」は所得とみなされ、原則として所得税がかかるからです。これを譲渡所得(じょうとしょとく)課税といいます。しかし、もしその寄付先が社会全体の利益(公益)のために活動する団体であれば、国もその活動を応援したいと考えます。そこで、一定の要件を満たせば、この譲渡所得に対する税金を非課税とする特例制度(以下、非課税特例)が設けられているのです。この制度を活用することで、社会貢献とご自身の税負担軽減を両立できる可能性があります。
寄付をすると税金が戻ってくる、というよりは「かかるはずだった税金がかからなくなる」のが、この非課税特例のポイントです。通常、土地や株式などを購入した時よりも高い価値で法人へ寄付すると、その差額(値上がり益)に対して所得税が課されます。これは、個人から法人へ財産が移る際に、個人に帰属する利益を一度清算するという考え方に基づきます。しかし、寄付先が「公益法人等」(こうえきほうじんとう)であり、かつ一定のルールを守れば、この所得税を納めなくても良くなる道が開かれています。これにより、より多くの財産を社会貢献活動に役立ててもらうことを国が後押ししているのです。
この非課税特例は、個人が土地、建物、株式といった財産(事業に関連するものを除く)を公益法人等へ寄付した場合に、一定の承認要件を満たすことで、国税庁長官の承認を得て所得税が非課税となる制度です(租税特別措置法第40条)。つまり、寄付する財産が購入時より値上がりしていても、その値上がり分(譲渡所得)に税金がかからなくなる、という大きなメリットがあります。ただし、国外の土地などは対象外となる場合があり、全ての寄付が自動的に非課税になるわけではない点に注意が必要です。
寄付した財産の値上がり益には通常所得税がかかりますが、公益法人等への寄付なら非課税特例で免除されることがあります。これは国が公益活動を支援するための制度で、適切な手続きと承認が必要です。この制度を利用すれば、税負担を抑えつつ社会に貢献できます。
あなたは対象?『非課税特例』のキホン
では、具体的にどのような人がこの非課税特例の恩恵を受けられるのでしょうか。まず、寄付をする「人」は、個人であることが前提です。法人が行う寄付については、また別の税制上の取り扱い(損金算入など)がありますので、ここでは個人に焦点を当てます。そして、寄付する「財産」は、土地、建物、株式などが主な対象となります。ただし、ご自身が事業で使っている商品や原材料のような「事業所得の基因となるもの」は、この特例の対象外となる点にご留意ください。
次に、寄付を受ける「相手」、つまり公益法人等とは具体的にどのような団体を指すのでしょうか。これには、公益社団法人や公益財団法人、社会福祉法人、学校法人、認定NPO法人(にんていエヌピーオーほうじん)などが含まれます。これらの法人は、その活動が社会全体の利益に資すると法律で認められている団体です。ただし、非課税特例には後述する「一般特例」と「承認特例」の2種類があり、どちらの特例を目指すかによって、対象となる公益法人等の範囲や満たすべき条件が少し異なる場合があります。
この制度を利用するためには、寄付をすれば自動的に税金がかからなくなるわけではなく、所定の手続きを経て国税庁長官の「承認」を受ける必要があります。この承認を得るためには、寄付が真に公益のためであり、不当な租税回避が目的ではないことなどを証明しなくてはなりません。手続きは少々複雑に感じられるかもしれませんが、その先には大きな税メリットが待っているため、専門家(税理士など)に相談しつつ進めるのが賢明と言えるでしょう。
この非課税特例は、土地や株式などを公益法人等へ寄付する個人が対象です。相手となるのは社会福祉法人や認定NPO法人などで、国税庁の承認を得ることで譲渡所得が非課税になります。手続きは専門家のサポートを得ながら進めましょう。
2つのルート:『一般特例』と『承認特例』
非課税特例には、大きく分けて「一般特例」と「承認特例」という2つのルートがあり、それぞれ対象となる法人の種類や承認のための条件が異なります。どちらのルートを選ぶかは、寄付先の法人や寄付の内容によって変わってきますので、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。
まず「一般特例」は、比較的幅広い公益法人等への寄付が対象となります。主な承認要件としては、(1) その寄付が教育や科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献など、公益の増進に著しく貢献すること、(2) 寄付された財産が、寄付の日から2年以内にその公益法人等の公益目的事業の用に直接使われる見込みであること、(3) この寄付によって、寄付した人やその親族などの所得税や相続税、贈与税の負担が不当に減少しないこと、などが挙げられます。これらの条件を満たしていると国税庁長官が認めれば、譲渡所得が非課税になります。
一方、「承認特例」は、一般特例の対象法人の中でも、特に国や地方公共団体に準ずるような高い公益性を持つ一部の法人(例えば、国立大学法人や一定の要件を満たす公益社団・財団法人、学校法人、社会福祉法人、認定NPO法人など)への寄付が対象です。こちらの主な承認要件は、(1) 寄付をした人が、寄付を受けた法人の役員や社員(いわゆる従業員とは異なる、社員総会を構成する人)、またはこれらの人の親族等に該当しないこと、(2) 寄付財産が、その法人の定款で定められた方法(特定の基金への組み入れや不可欠特定財産としての管理)で管理されること、(3) 寄付を受ける法人の理事会などで、寄付の申し出を受け入れることと上記(2)の管理方法が決定されていること、などです。「承認特例」には、一定期間内に不承認の通知がなければ承認されたとみなす「自動承認」の仕組みが一部導入されている点も特徴です。
どちらの特例を目指すにしても、申請手続きや必要書類の準備が求められます。寄付を行う前に、寄付先の法人とよく相談し、どちらの特例の適用を目指すのか、そしてそのための条件をクリアできるかを確認することが肝心です。
特例の種類 | 主な対象法人例 | 主な承認要件のポイント | その他特徴 |
---|---|---|---|
一般特例 | 幅広い公益法人等(公益社団/財団法人、社会福祉法人、学校法人、NPO法人など) | ・公益増進への著しい寄与 ・2年以内の公益目的事業への使用 ・不当な税負担の減少でないこと |
|
承認特例 | 国立大学法人等、特定の公益社団/財団法人、学校法人、社会福祉法人、認定NPO法人等 | ・寄附者が法人の役員等やその親族でないこと ・寄附財産の適切な管理(基金組入れ等) ・法人の理事会等での受入・管理方法決定 |
一部で「自動承認」制度あり |
非課税特例には「一般特例」と「承認特例」の2種類があります。「一般特例」は幅広い公益活動への貢献が求められ、「承認特例」は寄附者と法人の関係性や財産管理が重視されます。寄付先と相談し、最適な特例を選びましょう。
いつ、何をすればいい?申請のタイミングと流れ
この非課税特例のメリットを享受するためには、適切なタイミングで正しい手続きを行うことが不可欠です。まず最も重要なのは、非課税承認を受けるための申請書の提出期限です。原則として、財産を寄付した日から4か月以内に、寄付をした人の所得税の納税地を所轄する税務署長に「租税特別措置法第40条の規定による承認申請書」及び必要な添付書類を提出する必要があります。この「4か月」という期間は意外と短いので、寄付を思い立ったら早めに準備を始めることが大切です。
ただし、この提出期限には例外があります。もし、寄付した日がその年の11月16日から12月31日までの間であるなど、寄付した日から4か月を経過する日よりも前に、その寄付した年分の所得税の確定申告書の提出期限(通常は翌年3月15日)が来てしまう場合には、その確定申告書の提出期限までが申請書の提出期限となります。いずれにしても、期限を過ぎてしまうとこの特例は受けられなくなってしまうので、スケジュール管理は徹底しましょう。
申請手続きは、寄付をした本人が行うのが基本ですが、もし寄付が遺言によるもの(遺贈)であれば、その相続人や包括受遺者(ほうかつじゅいしゃ:遺産の全部または一定割合を包括的に受け取る人)が申請者となります。申請書の様式や必要な添付書類は、国税庁のホームページで確認でき、e-Tax(いーたっくす:国税電子申告・納税システム)を利用して電子データで提出することも推奨されています。特に「承認特例」の場合は、一般特例とは異なる様式や追加の添付書類が必要になることがあるため、どちらの特例を申請するのかを明確にして準備を進める必要があります。
非課税特例の申請は、原則寄付から4か月以内に税務署へ。期限厳守が重要で、年末の寄付には例外もあります。申請は本人(遺贈なら相続人等)が行い、国税庁HPで書類を確認、e-Taxでの提出も可能です。
メリットを最大化!知っておくべきポイント
非課税特例の最大のメリットは、前述の通り、寄付した財産の値上がり益(譲渡所得)に対する所得税が課税されない点です。例えば、1,000万円で購入した土地が5,000万円に値上がりした時点で公益法人等に寄付し、この特例の承認を受けたとします。通常であれば4,000万円の譲渡所得に対して所得税(及び復興特別所得税、住民税)がかかりますが、これが全て非課税となるのです。これは、手元に残る資金が増えるという意味ではなく、支払うべき税金がなくなるという意味で、実質的に寄付の効果を高めることにつながります。
さらに、「承認特例」を利用する場合、特定の条件を満たせば「自動承認」という仕組みが適用されることがあります。これは、例えば博物館等を運営する独立行政法人等へ文化財等を寄付する際に、文部科学大臣の証明書類などを添付して申請した場合、申請から一定期間(通常1か月、特定の場合は3か月)以内に税務署から「承認しない」という決定の通知がなければ、その申請について承認があったものとみなされる制度です。これにより、承認までの期間が短縮され、手続きの不確実性が低減されるというメリットがあります。
ただし、注意点もあります。この非課税特例の承認を受けた後でも、例えば寄付財産が約束通り公益目的事業の用に供されなかった場合や、「承認特例」で求められる確認書類を期限までに提出しなかった場合などには、承認が取り消されることがあります。承認が取り消されると、原則として、取り消された日の属する年分の譲渡所得等として所得税が課税されることになるため、承認後も要件を遵守し続けることが重要です。寄付は一回きりの行為かもしれませんが、税務上の影響はその後も続く可能性があることを覚えておきましょう。
非課税特例の最大の魅力は譲渡所得への所得税がゼロになること。特に「承認特例」では手続きが簡略化される自動承認制度も。ただし、承認後も条件を守らないと取り消され課税されるリスクがあるので注意が必要です。
この記事のまとめ
個人が公益法人等へ土地や株式を寄付する際、値上がり益への所得税が非課税になる特例があります。一般特例と承認特例があり、寄付から4か月以内の申請等が必要です。税負担を軽減し社会貢献を後押しする制度ですが、承認後の条件遵守も重要です。
よくあるご質問(FAQ)
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Q: この非課税特例と、寄付金控除はどう違うのですか?
A: 寄付金控除は、所得税の計算上、所得金額から一定額を差し引いたり(所得控除)、税額から直接一定額を差し引いたり(税額控除)するもので、主に「寄付した金額」に応じて税負担が軽減される仕組みです。一方、ここで解説した非課税特例は、寄付した「財産の値上がり益」に対する所得税そのものを非課税にするもので、対象となる税金の種類と計算方法が異なります。両方の制度の適用関係については、専門家にご相談ください。
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Q: どんな財産でもこの特例の対象になりますか?
A: 主に土地、建物、株式などが対象ですが、現金での寄付は、そもそも譲渡所得が発生しないためこの特例の対象ではありません(現金寄付は寄付金控除の対象です)。また、ご自身が事業で販売している商品や、国外にある土地などは対象外となる場合があります。詳細は税務署や税理士にご確認ください。
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Q: 手続きは自分でもできますか?
A: 申請書自体は国税庁のウェブサイトからダウンロードでき、ご自身で作成・提出することも可能です。しかし、承認要件の判断や添付書類の準備は専門的な知識を要する場合が多いため、特に高額な財産を寄付する場合や、適用関係が複雑な場合は、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
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Q: 「承認特例」の「自動承認」とは、何もしなくても承認されるのですか?
A: いいえ、「自動承認」は申請をしなくてもよいという意味ではありません。所定の申請書と添付書類を期限内に提出することが前提です。その上で、税務署側で審査が行われ、一定期間内に「承認しない」という連絡がなければ、承認されたものとみなされる、という仕組みです。あくまで手続きの迅速化や予見可能性を高めるためのものです。
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参考文献
著者情報

- 税理士(名古屋税理士会 登録番号_113665), 行政書士(愛知県行政書士会 登録番号_11191178), 宅地建物取引士(愛知県知事), AFP(日本FP協会)
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「税理士業はサービス業」 をモットーに、日々サービスの向上に精力的に取り組む。
趣味は、筋トレとマラソン。忙しくても週5回以上走り、週4回ジムに通うのが健康の秘訣。
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